インタビュー スノーボード

「熱量の高いスノーボーダーたちとシーンを共創していきたい」BACKSIDE CREWの裏側に迫る 丨BACKSIDE代表 野上大介さん

日本のスノーボードメディアで最もポピュラーと言っても過言ではないBACKSIDE。雪山への一歩を後押しするということを命題に、様々な切り口で7年以上毎日更新を続けています。代表の野上さんは数年前にオフラインコミュニティ『BACKSIDE CREW』を立ち上げ、読者とリアルに滑ることはもちろん、読者同士の交流の機会を提供し、スノーボードシーンの共創に取り組んでいます。BACKSIDEを通してその様子を拝見していて、どんな活動をしているのかすごく興味が湧きました。ということで、今回は日本のスノーボードメディアの唯一のオフラインコミュニティBACKSIDE CREWの裏側をインタビューを通してお伝えします。

読者アンケートから見えてきたBACKSIDE CREWの構想

───あらためて『BACKSIDE CREW』について野上さんから簡単に説明してもらえますでしょうか

野上さん:簡単に言うと「本当にスノーボードが好きな人たちが集まっているコミュニティ」です。7年前にBACKSIDEをスタートして、広告的なマネタイズをやらず、ブランディング優先でやってきて、色々な層の読者と繋がってきました。その繋がりの中で「きっと自分と同じような気持ちでスノーボードシーンを見てくれている人たちがいるだろう」と思っていましたが、実際に読者と繋がったことはありませんでした。SNS上でのやり取りはありましたが、そういう意味では、読者の顔が見えているようで見えてないような状態だったかもしれません。BACKSIDEを立ち上げた理由の1つでもある「フリースタイルが足りない」という言葉を読者に投げかけてみて、そこに集まったクルーと一緒にシーンを共創していきたいと思ったのが背景にあります。

BACKSIDE CREWについて余すことなく語った

241:BACKSIDEの立ち上げから7年だと伺いました(※取材時)

野上さん:7年前に原宿のいい感じのギャラリーでローンチパーティーをやりましたね。

241:自分もよく覚えてます。自分がちょうど関東に移住したくらいの時でした。

──BACKSIDE CREWの構想は7年前のメディア立ち上げ時にあったのでしょうか

野上さん:全然ありませんでした。

241:メディアがオフラインで集まるコミュニティを作っている事例は、知っている中だと、GO OUTがキャンプとかやったりしているイメージです。スノーボードメディアだと前例の少ない動きですよね。

───何年目くらいの時にコミュニティをやろうと思ったのでしょうか

野上さん:5年目くらいの時です。書籍とウェブマガジンの2種類があるので、その2つで読者属性がちょっと違うように感じていて、読者とつながってみたいと思いました。

───直接やり取りをしたことで、つながってみたい読者の姿が見えたのでしょうか

野上さん:見えました。TRANSWORLD時代はハガキ、BACKSIDEになってからはオンラインのフォームでアンケートを取っているので、読者の声はずっと大事にしています。BACKSIDEの時は、回答者に抽選で書籍のバックナンバーをプレゼントしていました。ある程度読者層の想定はしていて、特に自分と同世代くらいの人たちに対しては「雪がいいタイミングだけ滑ってるのではないか」と思っていましたが、アンケートの回答を見てみると、31日以上滑る人の割合が高くてビックリしました。回答数が約450件で、そのうちの約45%が『31日以上滑る』ってすごいことだと思います。もちろん、北海道・長野県在住とかの人たちがいらっしゃったとしても、会社員だとすれば、ほとんどの有給と週末の休みを使っていることになります。そのアンケートを取ったシーズン、自分はスキー場に仕事で行っている日も合わせてカウントして、20日程度だったので、読者の熱量が素晴らしいなと感じつつ、さすがに負けていられないので、昨年は35日くらいは滑りました。

241:それはすごい熱量です。バックサイドの読者は予想以上にガッツリ滑ってる人が多かったんですね。

───実際に読者の意見を集めたり直接つながることでメディアとしての表現に変化はあったでしょうか

野上さん:メディアってトップダウン型が多いと思っていて、TRANSWORLDもなんとなくそんな感じに見えていたかもしれませんが「媒体力があるところがこう言ってるからそれが正しいだろう」みたいなのをやめたかったんです。だからボトムアップが大事だと思っています。ボトムアップというのは、読者が主役という発想です。有料会員の特典で「一緒に雑誌を作ろう」というのを入れてましたが、それはすごく難しくて、一旦メニューからは外しました。 読者と一緒に会議をして、コンテンツを作っていくような世界観を作れたらいいなと思っています。

一時代を築いたTRANSWORLD SNOWboarding JAPANの雑誌

熱量の高いメンバーが集まるコミュニティ

───第1回目のBACKSIDE CREWのミートアップはどんな感じだったんでしょうか

野上さん:1回目は、15人くらいの有料会員のメンバーでオンラインのミートアップを実施しました。印象に残っているのは、ライフステージの変化でスノーボードから遠ざかっていた方で、ちょうど復帰のタイミングがこのBACKSIDE CREWの発足と重なって「同志みたいな人たちに出会えて嬉しい」と喜んでくれたことです。

241:すごくいい機会を提供してますね。

野上さん:「フリースタイルが足りない」という言葉になにかしら共鳴してくれた方が集まっているので、近い価値観を持った人たちです。BACKSIDE CREWでは、年に数回、メンバーで集まってセッションしています。普段自分が行かないエリアでセッションが行われたりするので、それが新しいスノーボードを見つけるキッカケになったり、コアスノーボーダー同士のマッチングの機会を提供できていると思います。

Zoomでのミートアップの様子

241:いわゆるプロショップなどが作っていたコミュニティ的な役割も果たしているんですね。昔からの野上さんのファンも結構いそうな気がしています。

野上さん:そうですね。TRANSWORLDを入り口にして、BACKSIDEを読んでくれている方も多いです。いい意味で、おじさんたちが若い子に刺激を与えてると思います。フリースタイルの起源が90年代前半の『ROAD KILL』だとすると、そこからフリースタイルが形成されて、その時代を駆け抜けてきた人たちの生の話を聞けるというのは、若手のクルーからすると価値があることみたいです。横の世代で繋がって、縦に思想や文化を落としていけるということはやってみないと分からなかったです。昔はハイバックをのこぎりで切ってた話とかが飛び交ってますね。世代間ギャップがいい意味で刺激になってると思います。

241:それは、コアであればあるほどたまらないですね。

BACKSIDEのインターンが『ROAD KILL』について質問する記事も掲載されている:記事リンク

全国各地に点在しているメンバー

───BACKSIDE CREWは今何名くらいいらっしゃるんですか

野上さん:全体で610人くらいの登録があって、有料会員は約30人です。

241:結構いらっしゃるんですね。

野上さん:『BACKSIDE TV』というのを配信していて、今まで、國母和宏、相澤亮、佐藤秀平にインタビューするという配信を3回やりました。その配信はクルー限定のコンテンツなので、その時にメンバーになってくれた方が多いと思います。

毎回、豪華なゲストスピーカーとの対談を実施している

241:個人的には出てくる数字が想像よりも全部上回ってるんで、すごいなと思ってます。

野上さん:オープンチャットにも取り組んでいます。白馬で盛り上がっているチャットほどの規模ではないですが、有料会員同士のコミュニケーションに使っています。オフシーズンはプロダクトの話が多いです。結果論ですが、クルーが北は北海道、西は兵庫県くらいまで各地域に点在していて、冬は「~のコンディションが~だった」みたいな情報が飛び交っています。若手のクルーから「こんな優良な口コミ情報が、まとまっているところなかなかないですよ」と言われて、その価値に気づきました。言われてみれば、スノーボード中心で人生が回っている人たちが発信する濃い情報って価値がありますよね。なので、このオープンチャットもバックサイドクルー全体の価値になっていけば嬉しいです。

───チャットが盛り上がってくれば、新しい取り組みもたくさんトライできそうですね

野上さん:実際にできるかどうかはまだ決まってないですが、スキー場とパートナーシップを結んで、バックサイドクルーの会員に優待プランみたいなものを提示できるようになるといいなと思っています。滑らせてもらったクルーが現地特派員みたいな感じになって、リアルなレポートなどをあげたりできたら面白いです。クルーの人たちも情報を言語化できるはずなので、価値のある情報になるんじゃないかと考えています。

241:たしかに、情報が誰かの役に立つっていうのは嬉しいことだと思いますね。

北海道ではスキー場だけでなくローカルプロショップのKONA SURFにも訪れた

BACKSIDEでしか体験できない価値のあるセッション

───BACKSIDE CREWはスタートしてから何シーズン経ったのでしょうか

野上さん:今シーズンで3シーズン目です。

241:現地セッションも積極的にやってますよね。

野上さん:BACKSIDE SESSIONは、シーズン中は毎月、オフシーズンに数回やっています。セッションの開催地の選定基準として「パウダーを当てたい」ということがベースにあるので、snowforecastを直前まで見て、2週間前くらいに開催日を決めていました。ただ、クルーから「最低1ヶ月前に告知してほしい」という意見があって、最近はできるだけ早めに日程を決めるようにしています。

2023年12月に行われたかぐらでのBACKSIDE SESSION

241:セッションのレポートを拝読していて率直にすごいと思ってます。参加者の方々を主役に仕上げるというか、フォーカスしてあげるところがいいですよね。参加してる人たちは、嬉しいと思います。その辺りは、実際の声としてはどうなんでしょうか。

野上さん:全員が嬉しいというわけではないかもしれないですが、今までライディングの写真を撮ってもらったことがない人たちには喜んでもらえていると思います。帯同してくれるカメラマンはWOWで有名になったZIZOなので、ZIZOに撮ってもらえるってだけでも価値はあると思います。ただ、写真ばかりにフォーカスしてしまうと、滑走中に止まることが増えてしまうので、1本でも多く滑りたいという人たちからは、少しトゥーマッチというような意見は少なからずあります。全員が楽しめるように、バランスを大事にしていきたいです。

241:確かに、バランスは難しいですね。撮影となると気合いが入る人も多そうです。

野上さん:カムイみさかでセッションした時は、FRESH FISH(有料会員)の方が攻めすぎてレイバックでZIZOの三脚を巻き込んだりしました笑

241:攻めすぎっす笑

昨年行われたカムイみさかでのセッション:記事リンク

セッションを盛り上げる豪華なライダーたち

野上さん:去年は、SIMS、K2、RIDE、FLUXからそれぞれゲストライダーを派遣してもらいました。佐藤秀平、山崎恵太、松浦広樹、中村貴之の4名です。

241:豪華なゲストライダーですね。

野上さん:帯同した度のセッションも満足度は高かったと思います。おじさん世代のクルーはSIMSで帯同してくれてた石川健二くんに目をキラキラさせてたのが印象的でした。秀平はもちろんすごいライダーなんですけど、世代間で反応が違ったのはおもしろかったです。FLUXは、担当者がクルーのギアを見渡して「来シーズンはFLUXをもっと使ってもらえるようにうちも頑張らないと」という風に話してくれたりしたので、リアルな現場を見て何かしら感じてもらえることがあるのというのは、メーカー側の方々にとってもいい機会になっていると思います。

佐藤秀平とのライダーセッションの一幕

241:個人的なイメージですが、BACKSIDE CREWにいらっしゃる熱心な方々って、そこまで積極的にSNSはやってはなかったりして、ネット上では見えてない部分なのではないかと思いました。そこに熱心な人たちがいるっていうのはいいですよね。

野上さん:そうですね。クルーの中には、積極的に初心者の子を教えていたり、スノーボードをもっと知ってもらうための活動を自発的にやっている人もいますね。あとは、自分たちの意見が少しでもメーカーやリゾートに反映されたら嬉しいと思ってる人も多いんじゃないかと思います。BACKSIDE CREWをやったことでそんな意欲的な人たちに出会えて嬉しいです。

241:ボトムアップな雰囲気があってすごくいいですね。

様々な属性のクルーが在籍

───クルーの方々はコミュニティの中でそれぞれ役割があったりするのでしょうか

野上さん:それぞれが自発的に動いてくれています。

241:具体的にどういうことでしょうか。

野上さん:クルーは住んでいる場所、仕事や働き方もそれぞれ違った人たちで構成されているので、個々のキャラクターが全然違います。しかし、みなさんそれぞれの長所を活かして、自発的に活動してくれています。自然と組織になってきいてる感じですね。コミュニティが形成される時はそういうプロセスを踏んでいくということを聞いたことはあったんですが、実際にそうなっていく過程を見て腑に落ちました。部活とかで例えると「もっと声出していこーぜ!」という感じの人が出てくるみたいなイメージです。

241:コミュニティって自然に形成されていくんですね。

野上さん:なので、自分は「枠組みを作った人」という感じの立ち位置です。「もしかしたら今は自分がいなくても全然成り立つのかもしれない」と思うくらいしっかりしたコミュニティになってきています。

241:飽きさせないような取り組みやコンテンツをどんどん提供していく必要はありそうですね。野上さんだからこそ、できそうなことがいっぱいあると思うので、クルーの方々の期待は高そうです。

野上さん:そうですね。クルーの期待を越えていくような価値を提供したいです。

東京雪祭ではクルーがステージで魅力を語った

───話が少し変わりますが、ウェブメディアを7年間、毎日更新されているのはすごいことだと思います

野上さん:毎日更新というからには、一度も休めません。一日でも休んでしまうとそこからボロボロになりそうで、そういったメンタル的な意味でも続けています。コアスノーボーダー向けメディアとしては、風向きが少し変わってきているのを感じています。コア向けの取り組みは全体に与える影響が少ないと思われがちでしたが、コロナ禍でマーケットがシュリンクしそうになった時、それを支えたのはコア層の人たちだったと思います。

241:まさにそういう層が集まっているのがBACKSIDE CREWですよね。

「フリースタイルが足りない」という言葉の真意と今後の活動

───「フリースタイルが足りない」っていうタグラインはクルーの皆さんはどういう文脈で捉えてるんでしょうか

241:野上さんが伝えたい文脈が理解できる・伝わる人って少なそうに思うんです。結構難しくないでしょうか?

野上さん:確かにそうですね。例えば、FORUMのレジスタンスとかを見てきた世代のフリースタイルスノーボーディングをやってきた人の話をすると、一時的にシーンから離れていて最近復帰した時に、若い世代のスノーボーダーから「どのスタイルを得意としていますか?」と聞かれたらしいです。長年、スノーボードをやっていると言葉の意味が分かると思うんですが、長いブランクを経て復帰した人にとっては、カービング系、グラトリ系、パーク系などスノーボードのジャンルが細分化されていることに違和感を覚えることがあるようです。たしかに、JP Walkerはパーク、ストリート、バックカントリーと様々な分野で活躍していたりしていて、当時はこれらのスタイルに明確な区分けは存在しなかったので、そういう風に思うのは自然なことだと思います。

フリースタイルの話をしている野上さんは楽しそうだった

241:確かにそれはギャップを感じるかもしれないですね。しかし「フリースタイルが足りない」っていう文章からここまで理解するのは難しそうです。

野上さん:要するに言いたいことは「雪の状況に関係なく、板1本でなんでも遊べるとかっこいいよね」ってことです。壁があればジャンプすればいいですし、雪が積もったらパウダーを滑ったりして、与えられた条件とフィールドでカッコつけるスタイルが好きということです。昔と今は状況が違うので、一緒にする事自体がおかしいことかもしれないですが、昔は今よりももっとスノーボードがマイノリティだったので、その環境を背景にして、同じような価値観が醸成されていました。それをフリースタイルスノーボーディングのアイデンティティーと定義していいのか迷うところではありますが、少なくとも黎明期はそのような価値観の集合体だったので、フリースタイルスノーボーディングに先述のような共通認識が形成されていたと思います。オリンピックが一つの契機になって、プレイヤーの分母が大きく広がって、ギアも様々な方向に進化し、スタイルや考え方が多様化・細分化されました。誤解を恐れずに言うと、細分化されたジャンルの一つに自分を当てはめないといけないような不自由さもあって、そういった意味で「フリースタイルが足りない」と言っています。難しそうに聞こえますが、シンプルにスノーボードを自由に楽しみましょうということなのです。

241:なるほど、すごく分かりやすかったです。つまり野上さんがおっしゃってる文脈がある程度理解できる人が集まってるから熱量が高いコミュニティになるんでしょうね。

野上さん:役割分担だと思います。昔ながらのフリースタイル担当です。

BACKSIDE CREWのこれから

───BACKSIDE CREWの理想の形があるとすればそればどんな状態ですか

野上さん:今は「現存のクルーのニーズに応えてあげたい」ということを第一に考えていますが、あえて未来の話をすると、BACKSIDE CREWで板を作ってみたいと思っています。BURTONのFamily TreeのラインにBACKSIDE CREWラインを作るみたいなイメージですね。そんなことができたらおもしろいなと妄想しています。夢に近いことですがクルーもそういうことを求めてくれていると思いますし、実現させたいです。あとは、コミュニティを盛り上げることを通じて、最終的にはスノーボード業界を盛り上げたいです。熱量が高いスノーボーダーがたくさんいるので、自分が信じているかっこいいフリースタイルの形を引き続き伝えていきたいです。このコミュニティのおかげで、自分が発信することを伝播してくれるリアルな人たちの姿が見えますし、クルーもたくさん意見を言ってくれます。メディアからの一方的な投げかけではなく、ボトムアップな形になってきていると思います。

241:野上さんが発信したことをコアユーザーが解釈して噛み砕いて、他の人に伝えていってくれたりするのは素晴らしい流れですよね。

野上さん:最終的にBACKSIDE CREWがリゾートやブランドとうまく絡んでいって、新しい取り組みができたら最高です。自分たちの意見やフィードバックがスノー業界の何かに採用されたり、気づきを与えられるとしたら、クルーはすごく喜んでくれると思います。

241:掲げていた「シーンの共創」という部分ですよね。野上さんだったらすぐに実現しそうです。実際に進んでいるワクワクする話も聞けたので今後の展開が楽しみです。

参考:BACKSIDE CREWについて

  • この記事を書いた人

Takahiro241

年間滑走100日の横乗りLOVER。スノーボード歴15年、サーフィン歴3年、スケボー歴8年。ランニング、サッカー観戦、カメラなど趣味が多いです。

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